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The Interrogation of Michael Crowe (TV)
    マイケル・クロウへの尋問

アメリカ・カナダ映画 (2002)

TV映画だが、カナダ人の子役マーク・レンドール(Mark Rendall)の代表作。マークが、実際に起きた14才の少年の冤罪事件の被告の役を見事に演じてカナダ映画テレビアカデミー(Gemini)賞の主演男優賞を獲得、カナダの映像業界(ACTRA)賞の主演男優にノミネートされている(何れも、子役対象ではない)。映画は「実話にインスピレーションを得た」でもなく「実話に基づいた」でもなく「実話」そのものである。実際の自白音声をそのまま台詞とし、余分な登場物は加えず、実際に起きたことを時間軸に沿ってそのまま再現している。そこには、一人の警官の思い込みが、担当刑事に間違った方向性を与え、その方針に沿って強引な尋問が行われ、14才の少年が精神的に崩壊することで自白を強要される過程が、克明に描き出されている。アメリカで、法律を学ぶ大学生は必ず観ると言われている作品である。それだけに、実に重い。

マイケル・クロウの一家は、長男のマイケル、2つ年下の長女フテファニー、次女のシャノン、父母の5人家族。時々ケンカもするが仲のいいこの家族に異変が起きたのは1998年1月21日未明。朝6時半、長女が自室で殺害されているのが父により発見される。半分犯罪者扱いされながら取調べを受ける家族。その中でいち早く容疑者となったのがマイケルだった。同夜不審者がいたという情報でトゥーイットという浮浪者を拘束するが、最初からマイケルを犯人と思い込んだ2人の刑事は、1日目3時間半、2日目5時間近い誘導尋問の結果、マイケルから自白を引き出す。そして、殺人罪で告訴する。映画の最初の1時間を使った克明な尋問の様子は、児童虐待に近いものであり、ウソの証拠で脅す、あるいは、助かてやると嘘をつく信じられないものだった。しかし、これはあくまで実際に起きたこと、実際に使われた言葉であり、それを知った上で映画を観ると、怒りとともに、マイケルの悲痛な叫びに対して心が痛む。

全編でずっぱりのマーク・レンドールだが、特に尋問シーンでの連続クローズアップで見せる真迫の演技には胸が詰まる。子役で、これだけの演技を見る機会は恐らくないであろう。私はこの映画でマークの才能に強く惹かれた。実際に観ていただければ嬉しいのだが、字幕もついておらず専門用語も多く、無理かもしれない。以下のあらすじでは、他の映画紹介よりも、尋問部分の台詞を詳細に記載し、写真の枚数もかなり増やすなど異例の扱いすることにした。


あらすじ

1998年1月21日未明、寝ていた夫妻が何かの音に気付いて目が覚める。同4時半頃、マイケルが、ひどい頭痛で台所に牛乳を飲みに行く〔疑われた理由1〕
  

同6時30分。長女の部屋の目覚ましの音で起きた父が、部屋へ見に行き血まみれの長女を発見。すぐに救急車を呼ぶ。
  

同6時37分救急車が到着。7時半頃、警察の調べで、侵入の形跡がない(→内部の犯行〔疑われた理由2〕)、長女に犯人の毛らしきものが付着(→マイケルの頭髪と断定)、金髪の男が夜うろついていた、という情報が集まっている。しかし、警官の一人が、マイケルだけ他の3人と離れてぼーっとしているのに不審の目を向ける〔疑われた理由3〕
  

最初から内部犯行の線で捜査が進み、3台のパトカーに別れて乗せられる家族。署に着いてからも、娘が殺されたというのに、犯罪者のように名札を持って前・横から写真を撮られ、毛髪・血液検査から、裸にされてのチェックまでされ、まるで犯人扱いだ。
  
  

そして、一通り調べが済むと、子供たちだけ「5分か そこらで済むから」と言われて別室へ。子供たちが出て行くと、刑事はすかさず、「子供達は、今夜こちらでお預かりします」。最初から、両親に内緒でマイケルを尋問するつもりで、妹を一緒にしたのはそれを隠蔽するためだった。
  

児童保護センターの殺風景な部屋で、「2人で寝るの、初めてだよ」と落ち込む兄妹。長女が殺されたというのに残酷だ。しかも、それは始まりに過ぎなかった。
  

翌日、警察の再度の現場検証で、最初にマイケルを疑った警官が、今度は別の怪しいものを発見したとして、刑事を呼んでくる。そこには、マイケルがいつもやっていたコンピュータ・ゲームの人を殺すシーンの絵などが壁に貼ってあった。ゲームの世界に入り込んでしまって殺人を犯したという構図がこれで出来上がった〔これが検察側の論告の基幹となる〕
  

そして、両親には何も知らせないまま、1月22日16時30分~20時にかけて第1回目の尋問が始まる。担当はこわもてのラルフ・クレイター刑事と一見ソフトなクリス・マクダナー刑事。主要なやりとりだけ以下、ピックアップする。刑事の発言が黒字、マイケルの発言が青字。

「マイケル、一体、どう 説明する? 君の毛があったのは、妹さんの手の中だ」
      【実際には、ステファニーと動物の毛だった】
「髪の毛1本手に入れば、DNAを使えば何でも分かる。採血されたことは、覚えてるな?」

「聞いてるか、マイク? 俺の目を見るんだ」
「君の部屋で、血痕を発見した」 【実際には、血痕はなかった】
「まさか。どこにあったの?」
「知ってるはずだ。暗かったからドジったな」

「ナイフは どう始末したんだ?」
「何てことを! 僕、知らない。やってないから!」
「ナイフについては、黙秘するのか?」
「知らないものは、知らないよ」
  
「14歳だろ? 一生、辛い目を見たいのか?」 【14歳以上は、刑務所行き】
「知らないって、言ってるじゃない」
「マイク、何でやったんだ?」
「こんなのムダだよ」
「嫌気がさしたか?」
「やってないったら!」
「助けて欲しいだろ、マイク?」
「やってないったら」
「人間には、魔がさすこともある。それに君は悪い人間じゃない。だが、朱に交われば赤くなる」
「何で、こんなこと続けるの? やっても いないのに!」
「記憶喪失になったことは?」
「ないよ。ないったら」
「分かってるのか? 君には、やれた」
「まさか、そんな、とんでもない! ああ神様、僕の人生、もう終わりだ。何も、覚えてないのに」
  

翌1月23日16時~22時過ぎにかけて、もっと長い第2回目の尋問が行われる。マイケルの顔はよりクローズアップされ、涙を幾筋も流しながらの悲惨な場面が延々と続く。

「君は、一つの人格じゃないんだ、マイケル。“一部”は、妹のことを愛してる。そして、仲良くやってる。だが、君の“別の部分”は、悪い人格だ。この人格は、無意識のうちに出現する」
「それが本当なら、僕は世界一恐ろしい人間だ」

「考えてみろ。家族の中で、実行できたのは誰か? 外部からの侵入者はなかった。ドアには鍵が掛かり窓から入った形跡はない。内部の犯行しか あり得ない」
      【実際には、ステファニーと両親の部屋の窓が無施錠だった】
「幼いシャノンか? それとも、ママか? それとも、パパか? それとも、君か?」
「家族の犯行だなんて、考えたくもない。僕も、やってない。でも、証拠の上じゃ僕しかいない。覚えてないのに。くり返し、質問したよね? でも、覚えてないんだ」
「マイク、俺を見るんだ。君は、“覚えてない”んじゃない。記憶が、欠落してるんだ」
  
「マイク、俺がいらいらしてる理由は11時間目が近づいてるからだ。いい加減、決着を付けたい。はっきり言って君の負けだ。君も、うまく立ち回れ。聞いてるのか、マイク?」
「できれば、そうしたいよ。でも、できない。僕は、どうなっちゃうんだろう?」
「最悪の選択は、難題を抱えたまま、何も言わないことだ」
「何を、してくれるの?」
「最大の難局から助け出してやる。君は、窮地にいる。俺達だけが、頼みの綱だ。答え次第では、助けてやってもいい。刑務所を見たことは?」
「ないよ」
「俺は、ある。刑務所には、何百人もの囚人がいる。プライバシーはゼロ。もし、そうなりたいんなら、俺達に止める気はない。それとも、助けて欲しいか? 今夜、真実が聞けないなら、機会はもうない」
  
「今夜話しても、真実じゃなかったら?」
「俺たちを騙す気か? 何て言い草だ。真面目に話せ、マイケル」
「分かった。でも、 話したら終わりにしてね」
「いいから、話せ」

そして、強制された嘘の自白が始まる。計11時間に及ぶ尋問で、マイケルには「ひょっとしたら自分がやったんじゃないか、という記憶の欠如に対する恐怖」と「一刻でも早く終わって欲しい」という気持ちしか残っていなかった。こうして、マイケルは、自分がジェファニーへの嫉妬から殺したと自供した。
  

その日の深夜、父のもとに電話が入る。マイケルがジェファニー殺しを自供したという報告だ。一瞬耳を疑う父。それを伝え聞いた母は、「あなた、何 言ってるの?」。「自白したんだ」。「違う」「違う」「違う」と、全否定する。父が懐疑的なのに対し、母の方が決然としている。
  

少年拘置所にマイケルの面会に訪れた両親。最初マイケルはうつむいて何も言わない。しかし、少しずつ心を開き、殺したと言えと何時間もそそのかされたこと、両親が「僕の犯行だと確信してる」「僕には戻って来て欲しくないし、顔も見たくない」と言っていると聞かされ絶望したと打ち明ける。「缶詰状態で、ずっと威嚇されてた。覚えてないことを、言えと責められて」とも。面会終了となり、「いやだよ、置いて行かないで。ここに、一人で いたくない」と涙目のマイケル。
  
  

両親は、弁護士事務所でさらにひどいショックを受ける。尋問の様子を録画したテープの一部を見せられ、わが子に加えられた言葉の暴力に愕然としたのだ。弁護士は言う。「彼らには、独自の方針があります。尋問をすると決めたら目標はただ一つ。真実ではなく自白を得ること」「彼は 2日で、精神的に崩壊しました」「この点を、弁護の基礎方針にします。録画に感謝しなくては」。
  

1月27日、ジェファニーの葬儀には600人が参列したが、マイケルの列席は拒絶された。さらに、葬儀中に聞き込んだ情報から、マイケルの友達のジョシュア・トレッドウェイが犯行に用いたナイフの所持していたとして逮捕された。 【犯行に使われたナイフではなかった】
  

犯行以来初めて自宅に寄った両親。娘の血の跡が消えないジェニファーの部屋で、母は、「墓地には行けないのね。可哀想に。悲しみは癒えないわ。できることは嘆くことだけ」と泣く。
  

家に寄った際に、近所の人が出てきて、「恐ろしい事をやりそうな浮浪者がいてね、あの夜、女性を探して方々のドアを叩いてた」「だから、警察に電話してやった」「調べたが、何もなかったそうだ」と話してくれる。両親は、さっそく警察へ。しかし、クレイター刑事の態度は、あまりにそっけなかった。「いいですか、犯人は息子さんです」。「なぜ、そんな結論になったか話して下さい」と母。「新聞に書いてありますよ」。こんなひどい応対があるだろうか。
  

ジョシュアの他にも、もう一人が逮捕されたのを受け、弁護人に会いに行く両親。他の2人の自白も強制されたものだとの説明を聞く。弁護士が席を立ってから、母が夫に向かって決然と言う。「警察の言うことは信用しない。何一つとして」。
  

5ヶ月後。マイケルが収監されている少年拘置所に週2回ずつ会いに行っている両親との別れ際の会話。母:「日曜に来るわね」。マイケル:「木曜、そしてまた、日曜。その くり返し」。母:「すぐに 会えるわ」、マイケル:「もう、限界だよ。時々、息ができなくなる。心臓が狂ったように ドクドクして、張り裂けそうになるんだ」。可哀想で見ていられない。
  
  

犯行当夜、何人にも目撃されながら警察がまるで無視している浮浪者リチャード・トゥーイットが怪しいと睨んだ弁護士は、証拠物品の保管所に行き、衣服に血痕が付いていることに気付き、「検査しましたが、血痕はありませんでした」という係官の意見は無視し、「構わないから、もう一度検査して」と要求する。
  

7月初旬、サンディエゴ郡裁判所で第1回目の審議が始まる。3人の被告は、子供でも手錠をかけられつながって入廷する。そして、検事の冒頭陳述は、ビデオ・ゲームに興じるティーンエージャーが暗黒面に引き込まれていき、ゲームと現実の区別が付かなくなり、一線を越えたという幼稚きわまるものであった。マイケルの部屋から見つかった絵を元にした粗雑な邪推だ。
  

8月13日に裁定が下る。ローラ・パーマー・ハメス判事が述べる。「自白の問題は、看過できません。私は、提出された証拠として、澹とした気持で録画を見ました」「マイケルが自白したのは、シナリオに沿っただけであり、ジョシュアにも同様のことが言えます。ここに、問題があります。有効性の確認が必要です。それは、陪審が判断すべきことです。ということは、3人は成人として裁かれます。上級審が開廷されるまで、3人の拘禁を解きます」。これは、良し悪しだった。もし成人として有罪となれば最高25年の懲役だ。しかし、開廷までは自宅に戻ることができる。判決を聞いて、複雑な表情のマイケル。
  

ちょうど学校は夏休み中。新しい家の自室に閉じこもってTVゲームをするマイケル。「なぜ、閉じこもるの?」「自分を 直視しないと。いつかは、元に戻るわ」と母。「町中みんなに、妹を殺したと思われてる!」「僕も、殺されてれば良かった」。その言葉にショックを受けた母。「私には、何もしてあげられない」「自分で途を探して、折り合うの」「私は、娘を失って茫然自失だった」「でも、あなたがいたから、何とか折り合えた。信じられないことに」。これは重い言葉だ。娘を殺された悲しみを乗り超えさせたのが、無実の息子が殺人罪で逮捕されたことだったとは。確かに、他に忘れる途はなかったと思うが…
  

ある日、庭で腰掛けている妹の横に、マイケルが座った。妹が、「パズルよ」「名前はあるけど、誰も覚えてない人」という。死んだ姉のことを言ったのだ。「そんなことない。妹は、みんなに好かれてた」と言うマイケル。「僕も、詩を書いた。記憶が薄れないように」。「わたし、忘れちゃいそうで心配なの… 声だって… どう思う?」。「大丈夫さ」。いいお兄さんなのだ。
  

12月17日、ジョン・M・トムソン判事が裁定を申し渡す。「警察は、威圧的に拘束しながら、マイケルに寛大な処置を約束しました。殺人を認めるという条件で」「結論として、彼の供述は裁判に使えません」。これは圧倒的に有利な裁定だった。検察側の最大の拠り所だった自白が証拠として使えなくなったからだ。ホッとするマイケル。
  

そして、検査開始からかなりの時間が経過し、ようやくトゥーイットの衣服のDNA鑑定結果が出る。トレーナーの3ヶ所からジェニファーの血液が検出されたのだ(最初の検査が如何にいい加減だったか!)。警察はこの事実を表向きは無視したが、クレイターとマクダナーの両刑事が州刑務所に収監中のトゥーイットを尋問に行く。そして、例によって「君の知ってることで心配事があれば、助けてあげよう」ともちかける。「お前は、少女を殺したと思われてる」「リチャード、俺はお前を信じてる」…
  

1999年2月25日、突然検察側が、起訴を取り下げる。しかし、それは告訴を中断しただけで、いつでも再逮捕できるというものだった。あくまで過失を認めない警察と検察に憤った両親が、市当局、市警、サンディエゴ郡検察に対して民事訴訟を起こすところで映画は終わる。
  

最後にテロップの形で、2002年5月15日(3年以上も経ってから!)、州の検察当局がトゥーイットをステファニー殺人の容疑で逮捕し、2004年5月26日、懲役13年(わずか!)で有罪となったことが紹介される。そして、この映画の完成時点ではクロウ家の民事訴訟は結審に至っていない、と出るが、実際にはその後、「犯罪捜査に対する免責」で棄却されてしまう。あまりと言えばあまりの結果である。最後に、ステファニーの死の前日に3兄妹で撮った写真がもう一度映し出される。参考にネット上に唯一載っている本当の3兄妹の写真(サイズが小さい)も紹介する。一家に幸せのあらんことを。
  
  

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